2011年12月初旬~2012年3月末。約4カ月の農閑期を利用して書き下ろした「マイファーム 荒地からの挑戦」。脱稿から約1カ月半たった今だからわかる執筆当時の心境や、本書の中で紹介されていた取り組みのその後について西辻氏に聞きました。

聞き手:木下 苗(フリーライター)

◎約1カ月半ぶりにお会いしましたが、随分日焼けされましたね(笑)。

そうなんですよ。ゴールデンウイークは、ほぼ連日マイファームの畑にいました。関東の農園で開催された餅つきイベントのヘルプに行ったり、千葉の松戸、兵庫の西宮、大阪の大東、神奈川の横浜などで野外講演をやったり、普段は見回りに行けない農園にも足を延ばして業務を手伝ったり……。あちこち駆け回っていました。苗の植え付けが始まる時期なので、この時期が一番やることが多いんです。

◎相変わらずお忙しそうですね。原稿執筆がもう昔のことに思えるのでは?

そうですね、あっという間だった気がします。先日、完成した本を自分でもう一度読みました。1時間強くらいで一気に読めましたね。自分の起業の経験を語ることを通して、なぜ僕がこれほど農業に夢中なのか、日本の農業が抱える問題とは何かといったことをわかりやすく伝えようと心がけたので、農業と関係のない仕事をしている人や、農業に特に関心がないという人にも気軽に読んでもらえるんじゃないかと思います。そういう人たちにもぜひ手に取ってもらいたいです。生きていくうえで欠かせない産業であるにもかかわらず、これまであまりにも見過ごされてきた日本の農業の未来について関心を持ってもらうきっかけになればと思います。

◎ちなみに、「こんな人に読んでもらいたい」といったイメージは、執筆前からあったんですか? また、過密スケジュールの中、本書を書こうと決意されたきっかけなどがあれば聞かせてください。

実はこれまでにも「本を書かないか」といったお誘いは、いくつかの出版社からいただいていました。でも、その頃は「まだその時ではない」と感じていて、お断りしていました。その時間をマイファームの事業に充てたいと思っていたんです。

ですが、昨年秋、編集部の知念さんから企画をいただいた頃、ちょうどマイファームの歴史を社員に伝えたいと考え始めていたんです。本書の4章でも触れていますが、社員が80人を超え、創業した頃の理念を共有することが難しくなってきていると感じていて。そのためにできることを模索中で、「マイファーム定義書」という社員向けの冊子を作っていました。その定義書の中に、会社のヒストリーについて伝える項目も設けようと思っていたんです。

でも、「せっかく機会をいただけるのだから、本の執筆に挑戦して、その本を通して社員に思いを伝えよう」と考えました。そうすれば社内といった限られた人だけではなく、もっと多くの人に、これまで自分が信じてきた『自産自消』とは何なのかを伝えることができるのでは、と考えました。

◎実際に執筆を始めて、発見などはありましたか?

執筆は、自分がこれまでに歩いてきた道を振り返るいい機会になりました。その中で一番思ったのは、起業ってやっぱり「最初の第一歩を踏み出すとき」が一番キツかったよなぁ、ということ。共同創業者である岩崎吉隆さんをはじめ、支えてくれた人がいなかったら今はないです。「自分は生かされている」「周りの人に支えられている」と改めて感じましたね。

◎本書の魅力の一つは、西辻さんが出会い、協働していく個性豊かな人の存在ではないかと思います。農家の人、西辻さんの学生時代のバイト先の店長であるカフェバーの店長、有機農法の専門家の先生、取引先の社長、マイファームの立て直しに尽力したコンサルタントの男性……。それぞれの言葉から、彼らが「仕事哲学」を持った人たちであることがわかりますし、彼らと西辻さんとの化学反応が、マイファームというほかにはない事業が生まれる源になっているのではと感じました。

いま例に挙がったような、本の中に実名とともに登場する方々はもちろんですが、そのほかにも、マイファームの社員一人ひとりからも僕は支えられていると思います。

完成した本を読んで改めて感じたことがもう一つあります。自分自身への反省なんですが、「前のめりすぎだな」ということ(苦笑)。プロローグの中で、役員の谷さんや岩崎さんから「暴走」と諌められることがあると書きましたが、確かに僕には勢いとか勘に任せて動いている部分があるな、今ならNGだな、と。

最初の第一歩を踏み出す時期は、先ほどお話した通りパワーもいるので、それも必要だったと思いますが、今はもうそういう時期ではない。僕が間違った選択をすれば、マイファームの社員もその家族もみんなを巻き込むことになるわけですから、今後はこの本の中の僕とは違ったものの見方が必要だと考えています。

◎西辻さんが今後どんなふうに変化を遂げていかれるか、興味深いですね。ところで、宮城県亘理町の津波に遭った農地でまいた菜の花の種のその後や、土壌改良材(マイファームが独自に開発した、塩害農地の塩分濃度を短期間で減少させることができる自然由来の資材)のその後など、本書の中で紹介したエピソードの後日談を伺ってもいいですか?

まずは菜の花ですね。当初の予定では、農地一面に菜の花が咲くGW頃、そこでイベントをやろうと企画していましたが、残念ながら花がまばらにしか咲きませんでした。やはり津波で防風林が失われてしまったのが痛かったですね。本書を書いていた頃は、菜の花の芽が残っていましたが、その後、結局は大部分が強風で飛ばされてしまって。自然は厳しいですね。でも、また菜の花の苗の植え付けを考えています。「津波でやられた農地に希望の種をまきたい」と始めた取り組みですから、簡単にはあきらめたくないです。

部分的だが希望の芽はでています!

それから、土壌改良材は、6章で触れたタイのほか、中国の蘇州でも使用したいと先方から呼ばれています。あのあたりも湖の汚染が進んでいて、塩害に悩まされているんですよ。海を渡り、どんな可能性を見せてくれるか楽しみなところです。

それからもう一つ、6章で同業他社との事業提携の話題にも触れましたが、農業ベンチャーの仲間たちとも大きな連携を考えています。まだちょっと詳しくは話せないんですが……。マイファームもそうですが、農業ベンチャーをやろうという人は、「もうからないのはわかっているけど、日本の農業の現状を何とかしたい」といった使命感で参入してくる人がほとんどです。そうなってくると、よりどころは「志」「仲間」というところだけなので、結束は固いです。ほかの分野と違って、競合以前の段階にいるので、一人勝ちの世界じゃない。これからも、仲間を増やしながら頑張っていきたいと思います。

◎ありがとうございました。今後ますますのご活躍をお祈りしています。

(2012年5月8日、京都の本社オフィスにて)

関連書籍

マイファーム 荒地からの挑戦

西辻一真 著
四六判・192頁・定価1680円(本体1600円)


◎セミナーを開催しました

参加者の声はこちら

◎西辻さんのおすすめ本

西辻さんが影響を受けた本、15冊です!


2014 © Gakugei Shuppan-Sha.