第5回都市環境デザインセミナー

北加賀屋クリエィティブ・ビレッジ構想-空き家、空き工場を創造活動の場に-



(ゲスト)
千島土地株式会社社長
芝川能一さん

第5回目の都市環境デザインセミナー、今回はまちあるきとセットの拡大版でした。 梅田から地下鉄で17分、住之江公園駅の一つ手前に北加賀屋駅はあります。駅前の大通りから一歩路地裏に入ると、道路脇にタイヤで作られた植木鉢が並ぶ、のんびりとした下町の風景が広がっていました。そんなまちの中に今、いくつもの小さな創造拠点が生まれています。カラフルに彩られた民家、怪しいめがね屋さん。路地裏の都市農園やシェアハウス。そしてまち外れには、巨大な造船所や工場跡地を転用した、身体スケールを逸脱するアートのための大空間。これら一連の動きを仕掛けてきたのが、千島土地株式会社の芝川能一社長、今回の都市環境デザインセミナーのゲストです。

道にはタイヤでつくられた植木鉢が まち外れにはいくつもの大空間


様々なアーティストが根を下ろし始め、関西の若者を中心に今注目を集める北加賀屋。2004年の「NAMURA ART MEETING’04」というイベントを皮切りに、特にここ2~3年の動きは急速に高まっています。2012年9月15日から3日間に渡って開催される、関西最大のデザインイベント、DESIGNEAST03の舞台となる名村造船所大阪工場跡地:現クリエイティブセンター大阪(CCO)も、ここ北加賀屋にあります。


◎地主と借地人が手を取り合うまち

今回のセミナーは、芝川社長の経営者目線でのまちづくりを知る、貴重な機会となりました。 人口減少と都市縮小の時代、北加賀屋のように、建替えや駐車場化では収益が上げられない土地がますます増えています。そんな閉塞感が漂う現場から、主体である地主さんが一石を投じたのが、「北加賀屋クリエイティブビレッジ構想」です。物件を低家賃でアーティストやクリエイターに提供し、地域の地価を上げる試みです。
一般的に、地主と借地人は利益相反するものですが、このプロジェクトにおいては、両者の間に少し違った関係性が生まれている、と芝川社長は言います。北加賀屋のプロジェクトでは、ビジネスとしての投資を最低限に抑える代わりに、まちの付加価値創出の一切をアーティストに委ねる、という姿勢をとられています。そうすることで、本来敵対するはずの両者がまちを盛り上げるために同じ方向を向いて協同するという、新しい関係が生まれているのだそうです。床を抜くのも外壁を塗り替えるのも自由、古い物件を彼らは好きなように手を加えて、建物やまちを使いこなしています。このように、単なる利潤追求だけではない、「大阪の地に文化の発信拠点を作りたい」という芝川社長の想いに共感したアーティストが、地域住民を巻き込んで、まちに新しい動きをもたらしています。

◎まちの案内人、ク・ビレ邸の佐藤さん
ク・ビレ邸のオーナー、佐藤さん カラフルなク・ビレ邸

しかし、まちを盛り上げるといっても、元々そこに住んでいた地域住民の方にとっては、いきなり入り込んできた「アート」に、戸惑いを覚えることもあるといいます。そんな、アーティストと地域住民のパイプ役を果たしているのが、ク・ビレ邸のオーナー、佐藤さんです。ク・ビレ邸はバーやギャラリーという本来の機能のほか、まちのインフォメーションセンターとしての役割をもつそうです。Tシャツ短パンで終始にこやかな佐藤さんは”インフォメーションセンターの人”というより、”近所の佐藤さん”といった印象。とても気さくで朗らかな方でした。芝川社長によると、地域住民へ向けての間口の広さを確保するためには、お酒を介したコミュニケーションの場が欠かせないそうです。ク・ビレ邸のバーと佐藤さんの親しみやすさは、まちとアーティストを繋ぐ重要な仕掛けになっているように感じました。地域住民にひらかれたコミュニケーションの場を用意することは、地元住民の方と一緒になってまちを変化させていきたい、というこのプロジェクトを動かす芝川社長の思いの表れでもあります。

◎まちへと広がるアーティストの輪

そして現在も増え続けているアーティストの輪は、様々な展開を見せています。ク・ビレ邸のような地域のたまり場をつくる店主がいれば、地域の人に絵を教える絵画教室を開いた人もいます。メディアやデザインのNPO団体もいれば、アーティスト向けの旅館もあり、月2回だけ営業しているめがね屋さんもあれば、まちなかの空き地に都市農園がつくられたり、劇場があったりもします。コーポ北加賀屋というシェアオフィスでは、建築家やデザイナー、木工職人らが一緒に住み、お互いに刺激を受け合いながら創作を行っています。見学に訪れた時も、オープンスペースの一画を皆で改修している最中で、そこでこれから住民に向けた木工ワークショップを共同で企画中とのことでした。このようなアーティストたちの分野を越えた繋がりは、彼ら自身の創作の領域を広げ、外に向かってはたらきかけることを可能にします。それが結果として、まちの人と繋がるきっかけにもなっています。

アーティストのための民宿、AIR大阪 こだわり満載のめがね屋、隠れ屋1632さん
路地裏に畑ができていました コーポ北加賀屋の1階中心にある共有スペース


◎よそ者が大手を振って歩けるまち

アーティストたちの自由な創作活動は、地域の住民に対してはもちろん、そうでない外部の人間にとっても、自由に足を踏み入れられるオープンな空間を生み出しています。観光地でも商業地でもない、私的な生活感が漂うまちであるにも関わらず、まちを訪れた人間がよそ者として肩身の狭い思いをしなくてよい空気が、北加賀屋にはありました。劇場もシェアオフィスも、旅館も絵画教室も、外から訪れるだれかを待っている空間というのは、まちに住む人にとっても、訪れる人にとっても、風通し良く居心地の良い場所をつくることに繋がっています。


北加賀屋のまちあるき風景

◎大阪のまちの仕掛け人

芝川社長は北加賀屋以外にも、様々なところで大阪のまちを盛り上げています。その一つが芝川ビルという近代建築の保存活用です。淀屋橋駅のすぐそばにあるこの歴史深いビルを有効活用するため、石のレリーフを修復したり、屋上テラスをビアガーデンにしたりと、ビルのオーナーにしかできないアプローチで、大阪のまちに賑わいの空間を生み出しています。
また芝川社長は、この北加賀屋クリエイティブビレッジ構想を手がけた経緯を話してくださいました。それはストラスブールのロワイヤル・ド・リュクスというお祭りを見たことがきっかけだったそうです。巨大な操り人形がまち中を練り歩き、観客を感動させているのをみて、「自分が人を感動させることはできないけれども、人を感動させるような場をつくりたい」と強く思ったそうです。実は芝川社長、今年も10月に開催される、水都大阪のアヒルのお父さんでもあります。水都大阪フェスの期間中に中之島に浮かぶ巨大ラバーダック。このアヒルは、芝川社長が旅先で惚れ込んだオランダの現代芸術家、フロレンタイン・ホフマンさんに特注してつくってもらった、れっきとしたアート作品です。中之島で行われる水都大阪フェスでも最も人気を集めており、あれほど老若男女に愛される”現代アート”は他にあまり見たことがありません。巨大ラバーダックも、この体験からヒントを得たのだと話してくださいました。

◎作って終わらないクリエイティブ

大阪のまちを様々な切り口で盛り上げている芝川社長。社長のお話からは、その中でも北加賀屋のプロジェクトは他の活動とは異なり、ビジネスとしてもまちの仕掛人としても、”手探り”で作っている、という印象を受けました。芝川社長だけでなくアーティストたちも、当事者としてまちに住みながら、自由にまちの風景を塗り替えたり、重ねたりしています。芝川社長やアーティストたちに共通するのは、作って終わり、ではなく、その場所で育てていく、という姿勢です。北加賀屋クリエイティブビレッジ構想というプロジェクトは、千島土地という会社が先導しながらも、そこで活動しているアーティストに託されたプロジェクトです。他の地域振興の事業のように、大金を注ぎ込んで大きなビジョンを押し付けない。そんな自由な空気をもつ北加賀屋だからこそ、個性豊かで魅力的なアーティストが集まってくるのかもしれません。今日も何か新しいことが生まれていそうな北加賀屋、まずはDESIGNEAST03に参加して、今後の北加賀屋の盛り上がりに引き続き注目していきたいです。

岩切江津子


CCOからみた名村造船所跡地




 


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