第4回都市環境デザインセミナー

「バルセロナ旧市街の再生-個別・小規模な環境整備から拡がるまちづくり-


(ゲスト)
龍谷大学政策学部准教授
阿部大輔さん

JUDIセミナー第4回のゲストは、龍谷大学政策学部准教授の阿部大輔さんです。2003年から2006年にかけて、スペイン政府給費奨学生としてバルセロナに留学されていた経験もある阿部さん。今回は「バルセロナ旧市街の再生-個別・小規模な環境整備から拡がるまちづくり-」というテーマで話してくださいました。今の日本の都市政策に対しても、非常に示唆に富むバルセロナ再生のお話を聞くことができました。


阿部大輔さん

◎都市政策がつくりだす、まちの輪郭

阿部さんがまず、会場の参加者の皆さんに「バルセロナに行ったことがありますか?」と尋ねると、半数近くの方が手を上げられました。これまでも幾度かバルセロナの講演をされてきた阿部さんとしても、かつてない人数だそうで、驚いておられました。私は残念ながら訪れたことがありませんが、それだけ阿部さんの今回のお話やバルセロナの都市政策へ、関心をもたれている方が多いことが伺えました。

最初にスライドに映し出されたのは、現在のバルセロナ市街の航空写真です。絵に描いたような整然とした格子状の新市街地の中には、突如異物が混入したかのような、縦横無尽に矮小な路地がひしめく旧市街エリアが存在します。それはあまりにもくっきり分かれており、一瞬CGか合成写真かと思ってしまうほどの違和感です。その航空写真から、バルセロナのまちには、時代が変わり、都市政策が変わるごとに生まれる断絶が、都市の形態に色濃く現れているのがよくわかりました。

そして、今回の主題である、旧市街地の再生戦略の話です。この旧市街はかつて、バルセロナの中でも非常に治安が悪く、スラムと化していた地域だそうです。そこに行政が切り込んで様々な再生策を施し、少しずつ改善を図ってきたとのことでした。現在はその成果が表れ、だいぶ治安も改善されているようで、阿部さんのスライドに現れてくる旧市街地の写真は、以前スラムであったことなど微塵も感じさせない整然とした美しい市街地がひろがっていました。

◎「多孔質化」による、風通しのよいまちへの再生

この旧市街で行われた都市計画は、「都市計画」という言葉で連想される、大味の政策ではありません。過密街区に穴をあけ、公共空間を創り出す「多孔質化」という手法で語られるその政策は、一般的な大規模再開発とは全く異なります。「多孔質化」という、その創造的な言葉の響き通り、まちに沢山の小さな穴をあけ、風通しをよくすることで、単なる通過動線としての道路ではない魅力的な「界隈」を生み出していました。本来なら難しい言葉で語られる政策を、こうしてたった一言で言い表す明解さは、都市計画や行政の政策を少し身近なものに感じさせてくれます。そうした視点で切り取ると、バルセロナに精通していないわたしでも非常に興味深いと感じられる操作が、幾つも施されていました。

その一つとして紹介されていたのは、ある教会前の広場の例です。密集市街地に埋もれていた古い教会のファサードを浮かび上がらせるオープンスペースは、まちの積み重ねてきた「時間」を、丁寧に再生させており、とても共感を持てるものでした。広場に面したカフェで憩う人々の姿も、その空間を楽しんでいることがよくわかりました。小さなアクションを数珠つなぎに引き起こし、まちの魅力をじわっと浮かび上がらせる、そんな魅力的な政策です。そうして生まれた公共空間は、非常に個性的な回答が可能になります。このように、今回紹介された事例は、広範囲の地図にはプロットできないような細やかな操作がまちの至る所に施されているものの集合でした。地図に落とし込めないような私的な規模の操作を、行政が率先して執り行なうという姿勢に非常に感銘をうけました。

<font size="-2">阿部さん。とてもわかりやすく丁寧に解説してくださいます。</font><br>

◎再生に潜む、都市の現実

ここまでは、理想的な成功例としての都市再生のお話を楽しく聞いていたのですが、そこから阿部さんは、旧市街地再生の功罪について話してくださいました。きれいに語られる都市政策は、一見成功を納めているように見えても、家賃相場の上昇によりそれまで暮らしていた貧困層が追いやられる、ジェントリフィケーションという現象を併発てしまうそうです。

都市を再生させることでそこに住めなくなる人を生んでしまう、という再開発の背景にある矛盾は、バルセロナだけでなく、日本でも見受けられます。またこうした問題に限らず、都市に暮らす貧困層にまつわる都市問題は、ネットカフェ難民や派遣村など、昨今の日本でも問題とされています。バルセロナと重ねて考えられる密集市街地問題は、日本でも至る所に存在し、いまだ解決策を見出せないでいます。

今回の講演は、建築家の西沢大良さんが「新建築」の誌面で現代都市問題に関して連載されている内容とも非常に関連が深いのではないかと思います。この「現代都市のための9か条」では、従来の都市計画に排除されてきた負の部分は、決して排除できないものであり、そこにこそ、これからの都市の可能性が見出せる、と書かれています。これはまさに、バルセロナの密集市街地問題、ジェントリフィケーションで排斥された貧困層の問題、そして、それに対処していくバルセロナのこれからによく現れています。更に建築や都市計画にとどまらず、デザインや経済など、震災以後、様々な分野で「都市」に対する関心は一層強まっています。

これからの都市を考えていく上で、今回のような海外の先駆的な事例には学ぶべき要素が沢山含まれています。バルセロナの都市に見られるように、都市に住まう人全員に対する平等な回答など存在しない、ということをしっかり理解した上で、「誰のための都市政策なのか」ということを常に自問自答し続けることの必要性を感じました。

バルセロナは、都市のデザイン戦略として、有名建築家の建物や若手デザイナーのプロダクトやCM放映など、あらゆる手法で魅力的な都市をつくりあげました。しかしこのような開発や再生の裏には、必ず何らかの犠牲が生じ、ひずみが生まれてしまうということを私自身が強く認識し、都市というものにたいして理想を捨てずに現実と向き合うことは、とても難しいものだと思い知らされました。

今回紹介していただいたバルセロナの事例は、都市計画という大きなスケールを保ちながら、小さな個別解を許容していました。そういった点では、前回のJUDIセミナーで話してくださったあまけんさんや、前々回の永田さんのような活動とも通じる部分のある、とても興味深い例であったと思います。

「開発が進み、シビックプライドも育ち、今がピークに良い状態」と、阿部さんがおっしゃる現在のバルセロナの街。ここ最近は政策の方針が変わり、「無駄」を省くために、これまでのデザイン戦略も陰を潜め、残念ながら下火になっているそうです。それでも、これからのバルセロナが、開発によって少しずつ生まれてしまった都市のほころびにどう対処していくのか、日本や世界中の都市にとって、引き続き学ぶところの多い街だということは違いありません。

<font size="-2">参加者の皆さん。とても熱心に阿部さんのお話に耳を傾けていました。</font><br>

岩切江津子



<関連書籍>

バルセロナ旧市街の再生戦略 公共空間の創出による界隈の回復
阿部大輔著
A5判・288頁・定価3150円(本体3000円)


 


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