第3回都市環境デザインセミナー

「プランナーとプレイヤーの両立は可能か?~尼崎からの発信~」


(ゲスト)
株式会社地域環境計画研究所・共同代表
若狭健作・綱本武雄さん

若狭健作さん
綱本武雄さん

都市環境デザインセミナー、第三回目のゲストは、尼崎のまちづくりに取り組まれている”あまけん”の若狭健作さんと、綱本武雄さんです。お二人は株式会社地域環境計画研究所・共同代表というまちづくりの”プランナー”としての肩書きをもつ一方で、「尼崎南部再生研究室」(通称:あまけん)として、尼崎で10年以上前からまちづくりの”プレイヤー”としても活動もされています。工業地帯を観光資源に活用する「尼崎運河クルージング」や郷土野菜「尼いも」の復活栽培プロジェクト、地域情報誌「南部再生」の発行などを手がけられました。

<font size="-2">今回は定員オーバーになるほどの盛況ぶりをみせました</font><br>

◎プレイヤーとしての“あまけん”

「あま!と愛称で呼ばれるまちは世界中でロサンゼルスの”ロス”と尼崎の”あま”しかないんですよ」といきなり世界の都市を引き合いに出して尼崎を語り、会場を沸かせたのは若狭健作さん。若狭さんのお話はとにかく面白く、軽快なテンポで次から次へと尼崎での取り組みを紹介され会場は終始笑いが絶えません。

お二人はいつも、尼崎の「人」に焦点を当て、まちの人の顔が見えるまちづくりをされています。尼崎は、昔ながらの町工場が残る、工業で栄えてきた職住近接のまちです。そんな下町ならではの魅力を紹介するフリーペーパー・「南部再生」は、今やあまけんの代名詞のような存在です。制作・編集もすべて自分たちでされ、10年以上前から現在まで地道に続けられています。ただかっこいいだけでない、人間臭くユーモア溢れる表紙のイラストやグラフィックデザイン、キャッチコピーには、他のフリーペーパーにはない”尼崎らしさ”が滲み出ていて、思わず手にとりたくなってしまう冊子になっています。

あまけんが仕掛ければ、観光案内も一風変わったものになります。尼崎に住む野球一筋の高校生、会社で”あま”出身だというのはちょっと恥ずかしいOL女子、工業地帯で働く旋盤工のおっちゃんなど、いかにも尼崎に実在しそうなキャラクターをつくり、彼らが案内する観光のパンフレットを制作。

さらにこの企画はそれだけにとどまらず、キャラクターにぴったりな本物の尼崎市民を募集して実際にその人にツアーガイドをしてもらう、というイベントにまで発展させてしまいます。ユニークな発想とデザインのセンス、実行力や人を巻き込む求心力の強さは本当に脱帽です。

そんな数々のプロジェクトの面白さを若狭さんが一通り語られた後に、客観的な視点で全体を概観させてくれるのが、綱本さんのお話です。それぞれのプロジェクトを成功させるための実践の仕組みや、根本的な問題意識はどこにあったのかなど、一歩引いた目線で事例について説明してくださいます。綱本さんの説明が加わることで、事例が面白いだけでなくとても強度のあるものだということに気づかされます。

若狭さんの魅力的なトークと、綱本さんの与える安定感のあるトークの掛け合いでテンポよく進行するセミナーからは、まちづくりの実践の場でもお二人が絶妙な役割分担をされていることが伺えました。

◎プレイヤーとプランナーの両立こそが生きる道

そして話は、今回のセミナーのテーマである「プレイヤーとプランナーの両立は可能か?」という話題に。尼崎でプレイヤーとして活躍されるようになり、他の地域から声がかかり始めたというお二人。そこで初めて、「他都市へ展開する難しさ」という壁に突き当たります。 自らがプレイヤーとなり、尼崎というホームで活動されていたお二人が、他の地域に入った瞬間にアウェイになる。そこで求められたのはプレイヤーでなく、プランナーとしての役割だったそうです。部外者としてなにができるかを考え、お二人は”まちのプレイヤー探し”と”チームづくり”に徹することになります。

「プレイヤーになれる人はどのまちにもたくさんいて、それを強いチームにまとめあげることが大切。それができれば自然とうまくいく」と若狭さん。当のお二人はプレイヤーもプランナーもないゼロの状態から尼崎でチームをつくってこられました。チームをつくる難しさを誰よりも知っておられるはずで、だからこそ、プランナーでもある今のお二人の、手ごたえと実感のこもったとても頼もしい言葉でした。

そして最後は「プレイヤーとプランナーの両立こそが生きる道」という言葉で話をまとめてくださいました。プレイヤーとして実践の場で経験を積み、プランナーとしてその知識を活かして仕組みをつくり、またプレイヤーで実践する。お二人にとっては、どちらも切り離して考えることのできないものなのだと語ってくださいました。

お二人のレクチャーだけでなく、最後の質疑応答もとても興味深いものでした。「プレイヤーとして地域に入りこみじっくり関わる間はいいけれど、いつかどこかでその地域を去らなければならない。そのことについてどう考えておられるのか」という学生の質問に対して若狭さんは、「一生尼崎でプレイヤーでありつづけたい」と答えられました。

“一生プレイヤー宣言”をしてくれる人がいる尼崎をうらやましく思うと同時に、プランナーとしてのあまけんの最大の魅力もそこにあるのだと感じました。プレイヤーとしては”尼崎をよそから来た誰かに任せるなんてもってのほか、自分たちのまちは自分たちで良くする”という強い思いを持っておられます。自身がプレイヤーとして強い想いをもっているからこそ他の地域でのプレイヤーに共感し、共感されることができ、またプランナーとしての引き際もわきまえられるのだと思います。

◎まちづくりに必要なのは、芸を磨くこと

関西学院大学総合政策学部教授の角野先生からは「まちづくりの職能には資格が無いが、おふたりは資格が必要だと考えておられるか」という質問がありました。それに対してのお二人の答えは、”資格があるから務まる仕事ではない”というものでした。

そんなまちづくりに必要なのは「芸を磨くこと」というのは鳴海先生のお言葉。人を惹きつけ、周囲の人間を巻き込む自分なりの”芸”、それは若狭さんのようなトークセンスでも綱本さんのようなデザインセンスでもなんでも良くて、自分ならこれ、という才能を磨き上げれば自然と周りに必要とされるようになる。プランナーを一言で表すなら「たしかに芸人がいちばん近い言葉なのかも」と言われました。

そして最後に、OSAKA旅めがねを運営されているハートビートプランの泉英明さんが、「お二人はプレイヤーとしての経験をもとにプランナーとして収入を得ているが、プレイヤーで稼げるようになるにはどうすればいいでしょうか」という質問をされました。「わかりません」と笑いながらきっぱり答えるあまけんのお二人は、本当に純粋なプレイヤーでもあるのだと感じました。

今回の都市環境デザインセミナーは定員を大幅に上回る、60人近くの参加者が集いました。学生や若い世代の方もたくさん参加されていて、あまけんのお二人の注目度の高さが伺えました。今は、茨木市や伊丹市など、京阪神のあらゆる地域でプランナーとして活躍の場を広げておられるお二人。プレイヤー”あまけん”としての今後の活動だけでなく、各都市でプランナーのお二人がつくるチームがこれからどんな面白いまちを作っていくのか、とても楽しみです。

岩切江津子

<font size="-2">セミナーから最後の質疑応答まで、終始笑いの絶えないセミナーとなりました</font><br>



<関連書籍>

いま、都市をつくる仕事
日本都市計画学会関西支部 次世代の「都市をつくる仕事」研究会 編著
四六判・224頁・定価1890円(本体1800円)

※あまけんのお二人の活動が紹介されています。


 


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