第2回都市環境デザインセミナー

「不完全プランニングのすすめ~風の人からの提言~」

(ゲスト)
株式会社iop都市文化創造研究所代表
NPO法人プラス・アーツ理事長

永田宏和さん


今年2回目の都市環境デザインセミナーでは「イザ!カエルキャラバン」や『地震イツモノート』など数々の防災や社会教育プログラムを仕掛けている、株式会社iop都市文化創造研究所代表でもありNPO法人プラス・アーツ理事長の永田宏和さんのお話しを伺いました。福祉やまちづくり、防災などの堅苦しく思われがちな社会的事業をアートやデザイン、建築とのコラボレーションによって、肩の力を抜いて楽しめるような仕組みをつくるお仕事をされています。

会場は学生から行政の方まで幅広い年齢層、満員です!
JUDIの鳴海邦碩先生は
プラス・アーツの理事もされています

「不完全プランニングのすすめ」というのが今回のテーマでした。これは、脇が甘くてスキだらけの提案こそ地域住民をやる気にさせ、彼らの愛情や思い入れを獲得できるというものです。今回、永田さんのお話の中には沢山の事例やエピソードが出てきましたが、どれにも共通して考えさせられたのは、まちづくりに携わる人にとっての様々な立場での「リアリティ」についてです。

◎まちづくりのリアリティ

最も大切なのは、地域にすむ人々がまちづくりにリアリティを持つことです。まちづくりはパッケージングされた完成形を与えていくら住民を楽しませても、主体性を持って取り組む余地がなければ、その成果が地域に獲得されることはありません。永田さんのようなまちづくりを仕掛ける種を運ぶ人を「風の人」、地元住民を「土の人」、地域を見守りながら育てていく中間支援としての立場を「水の人」と言い当て、特に「水の人」の重要性について話されました。 大阪カンヴァス推進事業のプログラムとして此花で行われた、「どんどこ!巨大紙相撲」。1年目に大成功をおさめたにも関わらず継続させることができなかった最大の理由は、「水の人」を見つけられなかったことにあるそうです。「強度のある優れたコンテンツを用意しても、たった1人が欠けるだけですぐに崩れてしまう。地域にも住民にも、自分ごととしてのリアリティのないまちづくりは脆いもの」という苦言も呈されていました。 逆に現在手がけている「ふれあいオープン喫茶」の事例では、高齢者と子どもを引き合わせるだけでなく、子どもたちがかわいいユニフォームを着て店員をやりたいという純粋な楽しさをうまく引き出して、ものごとを良い方向へ連鎖させていく面白さを語ってくださいました。 その他にも興味深かったのは、不完全プランニングの代表例として挙げられたインドネシアでの防災プログラムの事例です。日本の防災教育が海の向こうで生き生きとローカライズされていく過程を紹介し、まちづくりは型にはめすぎず、地域固有のリアリティをもつことが大切だと教えられました。

もうひとつは、作り手のリアリティについてです。永田さんが手がけた『地震イツモノート』で、イラストを依頼されたデザイナー・寄藤文平さんは、自身が経験したことのない阪神大震災に対しての「リアリティ」を持てず、なかなか絵を描く気になれなかったそうです。そこで永田さんは寄藤さんを神戸に呼びだし、語り部のお話を聞かせ、起震装置で揺れを体験してもらいます。そうして寄藤さんはようやく絵が描けるようになったというお話がありました。

◎ものとしてデザインすることの意味

また今回のお話では、「デザインの重要性」についても語ってくださいました。住民がリアリティを持つ為に必要なもの、それを引き出すのがデザインだと話してくださいました。例えば防災や防犯といったあらゆる社会教育プログラムなどは、敬遠されがちだけれど、大切なテーマです。しかし楽しくなければ関心をもたれにくいものです。そんな主体性や共感を誘い出すのに役に立つのがデザインであるというのが永田さんの考えです。 永田さんが「かえっこバザール」などで実践されているのは、おもちゃ欲しさから子供たちが知らず知らずのうちに防災を身体で覚えていく「仕組み」自体をデザインすることです。防災教育に対する無関心を、遊びという子供にとっての唯一のリアリティで克服しています。 そして、ものとしてデザインすることの重要性も同様です。こどもがよろこぶエプロン、ふっと笑いがこぼれるようなキャラクター、わくわくさせる会場デザイン。デザインでプロジェクトをブランディングしてあげることが大切で、色やかたちがふと目を惹くデザインは、受け手の感覚がその色やかたちに瞬時に共感し、その取り組みに興味を持つきっかけを生むための装置と言えます。防災訓練を子ども達が「やらされてる」ではなく「やりたい」と思うか、これは訓練をする意味に大きく影響します。 防災訓練だけでなく紹介された事例はどれも様々な形で多くのデザイナー、クリエイターが関わり、しっかりクオリティコントロールすることを心がけておられました。永田さんの事業はどれも”きっちりデザインに手間をかけること”を惜しみません。贅沢だ、必要ないと軽視されがちな「ものとしてデザインすること」がいかに大切か、多くの魅力的な事例で私たちに教えてくださいました。有名なクリエイターの方々も社会的な事業だと説明すればその趣旨に共感し、とても協力的に関わってくださるそうです。

◎風の人、土の人、水の人、それぞれの「作法」

そして最後に、まちづくりの担い手のリアリティです。「風の人、土の人、水の人、それぞれの「作法」が大事であり、お互いの立場をわきまえた役割分担が肝心。それが崩れてしまうとプロジェクトはうまくいかないが、逆に役割を演じきったらうまくいく。それぞれが出すぎず引っ込みすぎず、リアリティを持てる範囲で自分の役を全うすることが重要」と教えていただきました。 最後に若い世代やまちづくりに携わる人にむけて、「作法をわきまえること」と「現場を知ること」の大切さを説いてくださいました。みなさんは風の人、土の人、水の人どの人ですか?と投げかけられた言葉は、これまで様々な地域で実践を繰り返され多くの困難を乗り越えてきた永田さんだからこそ、「作法」を知ってほしい、わきまえてまちづくりに携わってほしいという想いが真摯に伝わってくる問いでした。

永田さんのお話に引き込まれたあっという間の二時間でした。数多くの事例は、まちづくりにいかに楽しさを生むかの試行錯誤の連続であり、永田さんの数々の面白いこぼれ話に会場の人が笑うと、そのプロジェクトが今この会場の人をも強く惹き付けているのがわかりました。まちづくりという実態のないものに携わるからこそ、人々がそこで得られる「楽しい」や「嬉しい」という感情をとにかく大切にされているのだという印象を受けました。今回のお話を聞いて、私自身もたくさんの人に、地域に関わることは決して義務でも、正義でも、必然でもなく、もっと肩の力を抜いて純粋に楽しむことを考えてほしいと感じました。

岩切江津子

<font size="-2">数々の興味深い事例に会場は引き込まれっぱなしでした</font><br>



<関連書籍>

都市・まちづくり学入門
日本都市計画学会関西支部 新しい都市計画教程研究会 編
A5判・224頁・定価2625円(本体2500円)

※永田さんも執筆されています

いま、都市をつくる仕事
日本都市計画学会関西支部 次世代の「都市をつくる仕事」研究会 編著
四六判・224頁・定価1890円(本体1800円)

※プラス・アーツの高林さんと此花の試みを紹介しています


 


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